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「アル・ジャジーラは真実を伝えていない」 アラブメディアへのクルド人の思い

アル・ジャジーラをはじめとするアラブ系のテレビ局がバグダッドなどの独自映像を発信し続ける中、「アラブ系テレビは真実を伝えろ」「なぜハラブジャの悲劇を伝えない」などとその報道姿勢を批判する集会が4月5日、イラク北部クルド人自治区のスレイマニア市内で開かれました。アラブ系メディアに対するクルド人の思いが色濃く反映されていました。
[学生ら100人が抗議集会]
集会はアラブ系テレビの記者らも滞在するホテルの前で開かれ、スレイマニア大学の学生組織や政党に所属する若い世代を中心に約100人が参加しました。参加者たちは「FREEDOM FOR IRAQ(イラクに自由を)」「地元メディアはアラブ系テレビの情報を使うな」などのメッセージを掲げました。とくに強い批判を浴びたテレビ局は、「中東のCNN」ともいわれるニュース専門局「アル・ジャジーラ」(本拠カタール)、今年2月に開局したばかりのニュース専門局「アル・アラビア」(アラブ首長国連邦が本拠。サウジアラビアに近いともいわれる)、「アブダビ」(アラブ首長国連邦)など。風刺画の1枚には、机の上に、アル・ジャジーラ、アブダビ、アル・アラビアの3局のマイクだけが並び、イラクの情報相が会見している場面が描かれました。
参加したスレイマニア大学3年の男子学生は「アル・ジャジーラなどの放送には幻滅している。イラク国民の名をかたってうそばかり伝えている」と訴えます。アラブ系テレビがイラクの現状を伝えながら、そのイラクに生活するクルド人の歴史や苦難を伝えないことに疑問が募っているようです。「フセイン政権によるハラブジャへの化学兵器攻撃(約5000人の市民が死亡したという)やアンファル・キャンペーン(約18万人の男が連れ去られたといわれる)のことは、彼らは決して報道しないのです」。政党組織に所属する25歳の女性も同意見。「これらのテレビ局はクルドのことはほとんど取り上げない。クルド人の苦しみについて何もいわない。サダムやイラク政府の言葉ばかり報道している」と批判します。アラブ系テレビのなかでは、90年にイラク軍に侵攻されたクウェートが本拠のクウェートテレビが、「ハラブジャのことも伝えている」とクルド人にも比較的好意を持って受け止められています
[アラブナショナリズムを鼓舞]
自治区では多くのクルド人がアラビア語教育を受けているため、衛星放送でこれらのチャンネルをみています。ピースウィンズ ・ジャパンの現地人スタッフも連日、放送内容を注視し、集会参加者と同様の思いを持っています。管理部門のスタッフ(35歳)は「これらの放送局は、アラブの民衆、アラブの国家という言葉を繰り返して使い、イラクはアラブ人の国、と事実と違う説明をする。そしてこの戦争をアラブに対する戦争だと強調している」と指摘。フセイン政権との深いつながりも疑っています。「彼らは、フセインの肖像や大統領宮殿が破壊される場面は決して流さない。アメリカ軍による前線の砲撃は映しても、イラク軍による砲撃の場面は流さない」
国外生活の経験を持つ別のスタッフ(35歳)は「アル・ジャジーラもBBCもCNNもイラクテレビも、それぞれの政治的背景に影響されているという意味では、どれも中立ではない」と冷ややか。そのうえでアラブ系テレビについては「イスラム教徒としての意識、アラブナショナリズムを鼓舞しようとしている」とみます。クルド人の問題を扱わないことについては、「欧米メディアも1988年に起きた化学兵器攻撃やアンファル・キャンペーンのことを伝えてこなかった。伝える必要が出てきたから報道し始めた」。彼がこれらのテレビをみる目的は「イラク内(中央政府側)に記者がいて、戦況ではなく国民の実状を知ることもできるから」。彼によると、集会のあったこの日、アル・ジャジーラは米軍が制圧した地域の住民のインタビューを流しました。悲惨な状況に置かれたその住民は「ブッシュもサダムもアラブの指導者もうそつきだ。水も食べ物も配ってくれなくていい。民衆が巻き込まれる戦争はこりごりだ」と答えました。「アル・ジャジーラがほしかったのは反米の声だったのだろうが、事実はそうではなかった」と彼はいいます。
集会の日、別のレポートでアル・ジャジーラは、検問でアメリカ兵から厳しく取り調べを受けるアラブ系の人の映像を流していました。誘拐事件に関連した容疑者とみられるとのことでしたが、アル・ジャジーラの画面にその説明はありませんでした。長い年月、戦乱と抑圧に苦しんできたクルド人にとっては、自分たちの歴史や気持ちを内外に発信することの重みは計り知れません。クルド語による衛星放送が行われ、国境を越えた情報発信が可能になった現在でも、彼らの苦難を十分に伝えない近隣のアラブ系メディアに対して、クルド人たちは大きな不満と失望を感じています。

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