SHARE
facebook X LINE
私たちの活動

【ケニア】世界難民の日-ゴミ管理を通じたコミュニティの変容の物語-

カクマで活動する住民団体の活動

 
ケニア北西部トゥルカナ郡では、人々は厳しい暑さ、気候条件に苦闘する傍ら、1992年以降、近隣諸国から多くの難民を受け入れてきました。ピースウィンズは、同郡にて長年喫緊の課題であったゴミのリサイクルによる管理に先陣を切って取り組む中で、決して恵まれた環境とは言えないこの地において、難民と周辺地域の人々が強くしなやかに変化に適応していく姿を目の当たりにしています。
 
ケニア政府は、2023年に、カクマ難民キャンプ、カロベエイ難民居住地区に滞在する難民の人々を現地社会に統合した形で、トゥルカナ郡西部のカクマ地域をミュニシパリティ(地方自治体)として制定しました。ミュニシパリティの人口は2023年末の統計で527,833人、このうち難民が288,206人です。自身の身の安全やさまざまな機会を求めて流入してきた難民の人口増加が続く中、収集されないまま放置されたゴミの山やゴミの野焼き、不法投棄の問題は人々の健康や生活の質に大きな負の影響を与えています。
 
こうした状況の中で、私たちピースウィンズは、ゴミ問題を持続的に解決するための包括的な支援の必要性を訴え、2023年4月から、日本政府の支援を受けて「循環型社会へ向けた分散型固形廃棄物管理体制構築事業」を実施しています。この事業では、カクマおよびカロベエイにおいて、焼却や埋め立てに頼らない、地域密着型のリサイクルを中心としたゴミ管理システムを構築することを目的としています。この事業は、「廃棄物の排出を削減し、衛生環境を改善、循環型社会を構築する」という、野心的な目標を掲げていますが、これはケニアの国家政策である「ビジョン2030(Vision 2030)」や廃棄物の削減・再利用・リサイクルの原則(3R)を強調した「持続可能な廃棄物管理法(National Sustainable Waste Management Law)」といったケニア政府の方針と合致しています。
 
本事業の概要とこれまでの実績
 
本事業は、以下の5点を柱としています。
 
1. 意識向上と行動変容: ゴミの分別と適切な処理方法に関する地域社会の意識向上、実践
2. インフラの整備: ゴミの集団収集場所への収集容器の設置、トランスファーステーション(中継所)や資源回収施設の建設、回収のための運搬車両の提供
3. リサイクルベースの管理構築:リサイクル業者との連携による有価ゴミの販売経路開拓、有機ゴミの堆肥化促進
4. パートナーシップ強化: ミュニシパリティ・郡政府、UNHCRなど国連機関、住民、商業団体との連携構築
5. 能力強化: ゴミ収集、管理を担当する地域住民団体および啓発活動を担当する管理推進員への研修
 
以下は、現在までの主な実績です。
 
・研修とキャパシティビルディング:住民団体約150人、廃棄物管理推進員約250人が研修を受講
・ゴミ箱の設置:金属製ゴミ箱235セット、プラスチック製ゴミ箱254セットを主要な場所に設置
・輸送方法の提供: 三輪車(トゥクトゥク)10台、手押し車数台を提供し、廃棄物収集を促進
・廃棄物管理計画の策定: 住民団体10団体が各自廃棄物収集計画を策定し、市場における廃棄物を処理するための具体的な戦略を構築
 
この事業では清掃やその他の衛生改善活動にすでに携わっていて、地域を清潔にするための意欲に溢れた難民と周辺地域の人々からなる住民団体10団体を選出し、そのメンバー674人が、積極的にゴミ収集、清掃活動、啓発キャンペーンに携わっています。これらの団体が地域のゴミ問題の解決に向かって切磋琢磨し、その結果として一体感や責任感が育まれてきているのは、ともすると対立的な関係になりがちな両コミュニティの共生にとても大切なことです。メンバー達は、なぜ、熱心にゴミ管理、清掃の活動に取り組むのかと尋ねられると、清潔は神の次に(Cleanliness is Next to Godliness)”という聖書の一節を引きながら、「地域を清潔にするのは自分たちの義務だからです」と答えます。
 
さて、ゴミの分別や地域の清掃の促進に、学校での取り組みは重要な役割を果たしています。校内では、啓発活動だけでなく、ポスターコンテスト、清掃キャンペーン等があり、生徒の関心を引きやすく、環境への責務を育むような活動が実施されています。これまで行われたコンテストで入賞したポスターには、「きれいな学校にするのは私たちの責任」「ゴミは分別しましょう」といった重要なメッセージがイラストに添えられており、きれいな環境づくりに、若い世代が意欲的になっていることがわかります。
 

Nationokar Comprehensive小学校、イグランゼ・ケサルさん作のポスター

 
環境への影響の少ないゴミ管理のためには、そのための施設も欠かせません。この事業ではこれまでに、世帯やコミュニティから集められたゴミを有機ゴミ、有価ゴミ、それ以外のゴミに分別するトランスファーステーション13箇所建設しました。今後、有価ゴミのリサイクルを推進し、その価値を高めるための資材回収施設やプラスチックゴミのリサイクル工場の建設が予定されています。
 
コミュニティへの影響、人々の声
 
現在、事業期間全体のうち3分の1にあたる1年が過ぎたところではありますが、カクマ、カロベエイでは、すでに顕著な変化が見られ始めています。かつてゴミに悩まされていた町の市場エリアは、収集容器の設置、地域住民団体による回収、市場委員会が主導する清掃活動等を通して、環境が改善されたほか、住民の中にも収集容器を利用する人や清掃活動に参加する人が増え、ゴミ管理に対するコミュニティの姿勢の変化が見られています。
 
2023年6月2日に放送された現地ラジオ番組では、コミュニティに住む人びとにより、以前は不適切なゴミ処理が原因となり蔓延していた下痢やコレラなどの病気が減少したことについても触れられつつ、「この事業は清潔さと公衆衛生に良い影響を与えている」との称賛の声が聞かれました。
 
カクマの住民団体のひとつ、「ウサフィ(Usafi、スワヒリ語で衛生、清潔)」のエヤラン・モーゼス理事は「ピースウィンズの事業で行われたさまざまな研修を通じて、私たちはゴミの管理に関する新しいスキルの研修を受けました。また、手袋や作業衣、清掃用具、手押し車などといった必要な道具の提供も受け、ゴミの収集、分別等の活動が安全にできるようになりました」と言います。また別の住民団体「Sound For Life」創設者であるエリティエ・エレルワ氏は「この事業が始まってから、コミュニティや商店、道路沿いに収集容器が設置され、人びとがゴミを適切な場所に捨てられるようになりました。それにより、ゴミを道端で燃やしたり、公共の場所に捨てたりするような人々も減りました。このような変化を受け入れられない人びともまだいますが、私たちはそのような人々に対しても、コミュニティのリーダーと協力し、彼らの変化を後押しするよう働きかけていきます」と意欲を見せました。
 

エリティエ・エレルワ氏。カクマ・キャンプを清潔に保つ活動を行う住民団体「Sound For Life」の創設者兼ディレクター。コンゴ出身の難民として2011年からケニアに滞在。

 

そして、これから
 
この事業の最終的な目標は、同様の課題に直面している他の地域においても再現可能なゴミ管理のモデルを確立することです。事業が進むにつれて、これまでに達成した改善、変化をさらに促進し、リサイクルを中心としたゴミ管理を効果的に、持続的に行えるような仕組み作りに重点が置かれるようになってきます。
 
カクマおよびカロベエイにおけるゴミ管理事業は、単なる環境問題への取り組みにとどまりません。ゴミ管理にかかわる住民団体のメンバーが、活動によって町がきれいな環境になっていくことに手ごたえを感じたり、達成感を得るようになること。学校の生徒達が、きれいな環境づくりに向けて、生き生きと活動すること。かつて住んでいる環境なんてどうでもいいかのようにゴミを燃やしたり不法投棄をしていた人々が、適切な場所にゴミを捨てていくうちに自らの住環境を大切にするようになっていくこと。こうした変容を通じた、人々の希望と尊厳、回復力の物語でもあります。
 
活動が進むについて、この事業は、逆境の中でも「人びとが一丸となって共通の課題に取り組むことにより何が達成できるか」を示す、証のようなものになっています。「世界難民の日」を前に、日本含む世界各地でも難民への関心が高まっています。ピースウィンズは、今までも、そしてこれからも、困難な環境にあっても、あきらめずに取り組む人々に寄り添い、支援を続けます。
 
執筆:Iman Shah(ピースウィンズ・ジャパン ナイロビ事務所インターン)

\平和をつくるために、2分でできること/
ピースサポーター申込フォームへのボタン画像です


ケニアでの活動をもっと知る

SHARE

SUPPORTご支援のお願い

支援が必要な人々のために
できること

ピースウィンズは世界各地で起こる紛争や災害などの危機に
いち早く駆けつけ、危機にある命を支援します。
また、傷ついた命が自分たちの力で歩んでいけるよう、
復旧・復興・開発に寄り添います。

  • HOME
  • 私たちの活動
  • 【ケニア】世界難民の日-ゴミ管理を通じたコミュニティの変容の物語-