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私たちの活動

帰還後の生活を支援(2) -支援する側の困難・葛藤-

ピースウィンズ・ジャパン(以下PWJ)は、東部トリンコマレ県での仮設住宅(シェルター)事業 に引き続き、帰還民が帰還先での生活を安定させることを目的とした生計支援を2010年7月1日より開始しています。
この事業では、26年に及ぶ内戦の被害者である人びとに対し、紛争で失った生活基盤を取り戻してもらうことを目的とし、それぞれがもともと営んでいた生計活動を早急に再開できるよう、最低限必要な資器材を各ニーズに合わせて配布する支援を実施しました。具体的な生計支援の内容は、現地でのニーズが高い畑作、稲作、漁業、家畜(ヤギ、鶏)飼育、小規模ビジネス(仕立て屋、軽食屋など)、移動販売(屋台)などです。
前回9月の報告では、クッチャベリ郡バーライユース村での支援対象となる人びとの選定作業の様子をお伝えしました。今回は、ムトゥール郡シャフィーナガールという村での受益者選定作業においてPWJが直面した困難や葛藤をご紹介することで、内戦後のスリランカの人々にとって真に生かされる支援とは何かをPWJスタッフが自問し模索していくプロセスを、PWJの活動に関心をもって下さるみなさんに知っていただければと思います。

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PWJスタッフ野上と小学生たち
 (C)PWJ

シャフィーナガールについて
シャフィーナガール村は、トリンコマレ県の南東に位置するムトゥール郡にある、人口1,500人ほどの村です。内戦中、多くの人々が各地への避難を余儀なくされ、避難回数も多い人は3回以上です。家族の多くが、こういった避難を繰り返す中で、家財道具や家畜などを失い、生計基盤が脆弱化しています。
シャフィーナガールでの支援活動は、大きく4つの理由から私たちにとって特に難しい事業地でした。
1.緊急性の判断
村人の大半が、内戦中に各地へ避難したものの、既に2006年の時点で故郷に再定住をしています。つまり2009年の内戦終結を受けて、避難民・帰還民へ緊急支援を行うべく現地入りしたPWJとしては、2009年の内戦激化により避難民となった方々へのより緊急な支援を優先と考え、支援を開始しました。このため、私たちは、この村で支援を行うべきかどうかについてまず判断をしなければなりませんでした。(補足:スリランカにおいては、国際援助団体は事業地を自由に選べるわけではなく、中央・地方政府から対象となる郡や村を割り当てられます。)そして、現場のニーズや他地域との比較を含めて熟考した結果、支援を行うことに決めました。確かに時間的な意味での緊急性とは異なるかもしれませんが、2009年以降に新たに帰還してきた村人もいること 、また、村人の多くが2006年に再定住してから現在に至るまでの4年間、内戦によって失った生計基盤を立て直すことができず困窮したままであったことを考慮すると、支援の必要性・正当性は高いと考えたからです。そこで、再定住した人々の中でも世帯主が寡婦・高齢・障害などの特別な事情によって特に困窮度の高い世帯を限定的に選び出して生計支援を行うことにしました。

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裁縫に取り組む受益者
 (C)PWJ

2.村長主導の受益者選定の難しさ
PWJの生計支援の受益者は、次のような基本プロセスを経て選定されます。
村長から受益候補者リストが出されます。このリストには、原則として、村長が経済状況や家族構成、内戦による被害などから生計支援の必要性がより高いと判断した世帯が載っています。
PWJはこのリスト上の受益者全てに対し、丁寧に時間をかけて個別インタビューと戸別訪問を実施し、受益者選定及び具体的な支援内容の決定を行います。
村長主導の受益者選定プロセスには、長所も短所もあります。まず最大の長所として、村長が村人1人1人の事情(家族構成や経済状況など)を把握していることが挙げられます。緊急支援のために現地入りした国際NGOが、短期間の間に受益者を選定し迅速に支援物資を配布しなければならない中、受益者の事情を良く知る村長の協力は欠かせません。
一方、受益者選定について村長の希望がPWJ及び支援者側と異なってしまった場合に、私たちは困難な決断を迫られます。もともとPWJは、どのような支援を行うにしても、徹底したボトムアップ方式(対トップダウン方式)を採用し、事業村の全ての関係者(村長、自治組織、農業局、畜産局、漁業局など)と密接に連携しながら、受益者個人や村全体にとって最善となる支援の形を模索します。そのことは地元の関係者からも評価されていて、私たちの支援方法への自信にもつながります。しかし、どんなに徹底したボトムアップ方式でも、地元関係者との意見の衝突は起こります。例えば、本来支援の対象となるべき弱者や困窮した人が受益者リストから漏れる一方で、支援の優先度が低いはずの、比較的裕福であったり自力で生活できたりする人がリストに含まれることがあります。PWJとしては、村長の意向や権限を最大限尊重しながら、受益者資格があるのにリストから漏れた人々を特定してカバーしていく作業と、資格がないのにリスト入りした人々を除外していく作業に多くの時間と労力を費やさなければなりませんでした。

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ボート配布の様子
 (C)PWJ

3.個人を対象とする生計支援の難しさ
一般に、個人を対象とした支援には、正当性や公平性などの観点から難しさが伴います。ある村の住人全員を平等に支援できるのなら問題はないのかもしれませんが、緊急時の限られた予算と時間内で、必要性や正当性の高い順から支援するとなった場合、隣の家同士でも、支援が受けられる世帯と受けられない世帯が出てきます。ここシャフィーナガールでは、村長から支援を要請された82世帯のうち、最終的にPWJが受益者として選定したのは70世帯でした。当然、選ばれなかった村人からは苦情が相次ぎましたし、中には、選ばれた世帯は虚偽の報告をしたと誹謗中傷するケースもあり、推薦人である村長は彼らとPWJとの間で板ばさみになってしまいました。このように、結果的に、国際援助団体が事業地の村人の間に不満や争いの種をもたらしてしまうことも不本意ながら起こり得るのです。

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受益者家族とヤギ
 (C)PWJ

4.援助依存からの脱却と自立を促す支援の形の模索
PWJが活動しているトリンコマレ県には、津波や内戦の被害への対応として国際支援がどっと流れ込んだ経緯があります。その結果、人々の間に支援への期待や依存の心が芽生えていることは否めません。自力で生計を立てていくという意志や心構えが見えにくく、「また次の団体が来てくれるだろう」という期待から、これまでに別の団体から受けた生計支援を無駄にしてしまっている人々も少なからずいます。もっとも、支援をする側にも、真に生かされる支援を提供する努力と、それを可能にする実力が求められることは言うまでもありません。
シャフィーナガールでも、国際援助団体への期待や依存心が村人や村長に見受けられました。PWJが支援することで依存心をますます高めてしまうのではないか、支援が長期的に見てこの村の人々にとって良くない効果をもたらすのではないか。援助する側としてはこうした点を自問せずにはいられませんでした。そうした中、PWJとしては、寡婦・高齢・障害などの事情から特に困窮した世帯のみを限定的に選定し、健康に問題のない若年・中年男性が世帯主の家庭は支援の対象外とするなど、人々から自立心を奪ってしまわないよう最大限配慮しながら支援を行いました。
生計支援を行った世帯に対しては、一定の経過を見てモニタリングをし、配布した資器材の使用状況や、どれだけ収入が向上したかなどを確かめます。PWJの支援が、シャフィーナガールの人々が長い内戦によって受けた苦しみや困難を少しでも和らげる手助けになったことを願いつつ、次の再会を楽しみにしています。

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村の子どもたち
 (C)PWJ

報告:野上菜都

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